┃┃┃┃┃┃┃ DAYBREAKer  

「どういう事だよ…一護」
「どう…って…」
 睨みつけられて、一護は答えられずに視線を外す。
「お前――ふざけんなよ!」
 襟元を掴んで引き寄せられ、間近で睨むその顔は、確かに自分のもの。でも、そんな表情は、自分ならきっとしない・出来ない。
 目の前の男は怒っている。そして、泣きそうだった。
「聞かれても俺には解らねぇ」
「解らねぇじゃないだろうがっ!!」

 鼓膜がビリビリ言うほどに大きな声で怒鳴りつけられた。

「石田、どうしたんだよ」
 一護の身体に入ったまま、コンは激昂していた。
「だから、知らないって」
「知らないじゃないだろう。何があった。お前、石田に何をした」
「何もしてない。ただ…」

 ――僕はもう、君たちとは係わらない。だから
「傍に寄るな。構わないでくれ…って…」
「で? だから本当に放っておくのか?」
「本人が嫌がってるんだ。俺がどうこうできる問題じゃねえだろう?!」
 俺の気も知らないで、と苛つく一護に、コンは冷たい視線を向ける。
「姐さんは」
「え?」
「それでも、姐さんは助けに行ったじゃねえか」
 
 ズキン、と胸が痛んだ。

「…でも、あの時は状況が違うだろう。死罪だって言われていて――」
「今回は、命の危険はないから放っておくのか」
 いつもの無理矢理なお前は何処に行ったんだ!
 コンが喚きたてる。
 そう言われても、一護には成す術がなかった。

 ――あの顔で…昔の、あの感情を押し殺したような顔で言われてみろ。
 何も言えなくなるから。

 きっと、本人が悩んで選択した答えなのだ。
 外野が口を出せることではない。
 雨竜はヘンな所で強情だから、他人がどうこう言ったところで決心がグラつく事はないだろう。

 居た堪れない。
「さっさと身体返せよ」
 手を伸ばすと、振り払われる。
「ふーざーけーるーな〜ッ、バカ一護! お前もさぁ、解ってンだろ」
 姐さんには、他に力になってくれる人がいる。
 井上さんや他の人にも、支えてくれる人は居る。
「一番一人に出来ないのは、石田だったんじゃねえのかよ――嘘吐き」
「お前なぁ!!」
 言いたい放題のコンに、流石の一護もキレる。
「こっちの気も知らないで言いたい放題言ってんじゃねえ! 俺だって…俺だってな…っ」
「お前の気持ちなんか知るか! メガネの事情も知るか!!
 でも、アイツ一人にしておけないだろッ。そう言ったの、お前だろ?!」

 一度手を差し伸べておいて、放すんじゃねえよボケ。

 コンはそのまま飛び出していってしまう。
「一護、身体借りる」
「ちょ…! 待てってッ」
 あっという間に遠くなる後姿に声をかけるも、足は動かなかった。
 言われた言葉がいちいち痛い。
 解っていて、それでも見えないようにしている事実を目の前に出されるのは辛い。

 自分だって、引き止められるものなら引き止めたい。
 でも、こちらにもこちらの事情があって…自分だって悩んでいるのだ。ルキアの時とは、微妙に事情が異なっている。どうして良いのか解らなかった。
 それに、石田は触れたら壊れてしまいそうで、大切だからこそ、何も出来なくなるなんて事があるって、コンは知っているのだろうか。
「何も、知らないくせに…」
 立ち尽くし、硬く拳を握り締めたまま一護は呟いた。

 +

 景色が物凄いスピードで流れていく。
 探す・探す・探す。
「見つけた…!」
 見た事のある後姿に、コンは足を止めて目の前に降り立った。
「…!!」
 雨竜は目を見開いて立ち止まる。
「石田」
「……」
 声をかけるが、視線を落とした雨竜は無視して歩いていこうとする。すっ、と隣を通り過ぎられる。
「…おいっ! 無視すんなよ、ヘタレメガネ」
「誰がヘタレだ!…あ…っ」
 つい反応して振り返った雨竜は、バツが悪そうに顔を顰めた。
「よう、オレを無視するとは良い根性してんな」
「コン君…黒崎から事情は聞いてるだろう。もう、係わらないでくれ。
 君の身体が壊れたときは井上さんにでも直してもら…」
「そういう問題じゃねーッ!!
 何か? お前はオレが自分の身体が心配でお前を追ってきたとでも思っているのか?
 バカヤロウッ、どいつもこいつもふざけンなよ」
 眼鏡を押し上げつつ言った雨竜は、そのポーズのまま硬直する。
「放っておけないんだって! お前、何があったかなんて知らないけど、勝手に行くなよ」
 肩を掴んで揺すると、ふ…と雨竜の口元が綻んだ。
「……?」
 首を傾げるコンの目に
「…有難う」 
 微笑んだ雨竜の顔が映った。

 雨竜は、僅かに微笑んだまま、泣いていた。

「優しいね、君」
「い…石田?!」
「…でも、もう決めたことなんだ…僕は、滅却師の能力を取り戻したい…」
 我侭で、ゴメン。
 ほろほろと涙を零されて、コンは何も言えなくなった。そのまま、衝動に任せて抱き寄せる。
「――っあ…」
 雨竜が小さく呻いた。
「石田…石田! ダメだって、お前、どう考えても放っておけないじゃないか。一人で生きてけるのかよ、お前」
 自分も、一人きりだったから解る。
 一度差し伸べられた手を離されるのがどれだけ怖いか。
「なぁ、一護の阿呆は忘れろよ。アレは何も解ってないから。だから…」
「うん」
 頷いた雨竜は、そっと押して身体を離す。
「有難う、そう言ってくれて…嬉しいよ。でもね」

 ――もう、決めたから。
 吐息だけで囁かれた。

 また手を伸ばしかけるコンに、俯いたままの雨竜は呟く。
「どうして…」
「え?」
 触れる直前で、手が止まった。
「…どうして、黒崎じゃないんだろう…なんで、君なんだろう…」
「……」
 足元を見詰めながらぼんやりと呟いた雨竜は、その言葉を自分が口にしたことに気付いているかも怪しかった。

 でも。
 言われるまでもなく、最初から解っていた。
 雨竜が必要としているのは、自分じゃなくて一護だ。
 例え一護の身体を借りていたとしても、代役なんて出来るはずもない。

「はは…オレじゃぁ止められないか〜。そうだよな、オレ普段ぬいぐるみだし。アレで全力疾走は出来ないからこの身体借りてきたけど…へへ、逆効果ってヤツ? 一護の顔で言っても、説得力ねえよな。もっとイケメンじゃないとよ」
 冗談めかして言った言葉に、反応はなかった。
「……」
「――じゃぁ、反対にオレが別の身体だったら…?」
 反射的に出た言葉に、雨竜は不思議そうな顔をした。
「え?」
「一護の身体だから気になるって言うなら、別の身体を手に入れる。だから…」
「…そういう問題じゃ…」
「ない、よな…そうだよな」

 もう一度言われるなら、また黒崎が良かった。

 口にはされなかったけれども、そんな思いが伝わってきてコンは苦しくなった。
 じわり、と視界が滲む。
 自分が泣いてどうする、と思いながらも涙は止められなかった。
「君が泣かないでよ」
「泣いてねえ」
「…嘘吐きだね……君も、僕も」
 今度は、雨竜から手を伸ばしてきて抱き寄せられた。
「ごめんね、コン君」
 雨竜は呟いて、深く肩に顔を埋める。

 ――さようなら、黒崎――

 小さく呟かれた言葉が耳に入ってきて、塞ぎたくても塞げなくて、コンは強く雨竜の細い身体を抱き締めて泣き崩れた。
「もう、どいつもこいつも…莫迦ばっかじゃん…! 
 大嫌いだ、お前らなんて…ッ!!」
「うん…うん、ゴメン…」
「謝るなよ、余計辛くなるだろうが」
 
 代理でも良いなんて思えなくて余計辛くなるのなら、こいつらに係わるんじゃなかった。
 代理なんて出来ないくらい想いが一筋なのを知っているんだから、口にすべきじゃなかった。
 歩き去る雨竜の後姿を見詰め、コンはまだ滲む視界を手で覆った。





12315リクエストの「コンが出る」プラス「雨竜が泣く」お話。
つい本誌妄想からテーマに沿ったものが出来てしまったので…書き上げてみました。
でもイタタ…(笑)なので、今度もっとなにか…リベンジしたいです。

そして、イチウリベースのコン→ウリ臭のするモノになってしまいました(がっくり)
えむ様、ごめんなさい〜(倒)
そしてイチウリだけを求めている方とかにも申し訳なく…

この場合、あくまでイチウリを観察して後押ししてるうちに(一護視点の話ばかり聞いていたので)雨竜が気になって仕方なくなって、基本は女の子が好きだし石田は天敵なんだけれども…!な、葛藤のあるコンなのです。
好きとか嫌いとかよりも、一人ぼっちは嫌だよね、って同類相憐れむ、というか。
それに、どんなに優しくされて、自分の欲しい言葉を言ってくれるとしても、石田はコンになびかない。…黒崎一筋なのです。

コンウリは書かんとですよ…私はイチウリ書き…(ブツブツ)