┃┃┃┃┃┃┃ Realm Gap  

「なぁ、ルキア…」
「なんだ?」
 一護は教室の喧騒に紛れて低い声で言う。
「俺、あれはどうかと思うぞ」
「あれ…とは?」
 解らない様子のルキアに、一護は先程より大声で話している一団を顎でしゃくってみせる。
「だから、アレだアレ」
「ふむ?」 
 登校してきた時から、その生徒の周りには好奇の目と嘲笑混じりな声、その他諸々が混在していた。
 彼は今日は遅刻で、しかも昼休みになってからやってきた。
 一体今日はどうしたのか、と訊ねる友人に彼は興奮気味に答えていた。

「オレっ宇宙人見ちゃった…!!」

 事故か。
 頭を打ったのか。
 途端に哀れみをこめた視線を向けられ、彼はムキになって言う。
「本当に見たんだって!」
 必死になればなるほど、周囲の反応は冷たい。
「嘘吐きっ!」
 ついにそう言われてしまい、彼は半泣きで叫んだ。

「マジだって! 家出た瞬間宇宙人に攫われたんだよ!! ちょっと脳味噌吸われてたんだってば!!!」

 はいはい、真剣に聞こうとして損した。
 時間の無駄だったわ。
 わらわらと去っていく友人連中に向かって、その男子生徒は虚しく手を伸ばした。
「本当なんだってばぁぁぁっ」

「何の問題が?」
 手にした本で口元を隠しながらルキアは一護に囁く。
「問題大有りだろうが!」
 同じようなトーンで返して、一護は頭を掻いた。
「前から思っていたんだが。」
「ん?」
「あの記憶置換の代替記憶の内容と言い、ソウルキャンディーのパッケージデザインと言い…
 ちょっとおかしいんじゃねえの? お前ら」
「何を言う!」
 イラスト混じりな熱弁を揮いだしそうなルキアを圧し留めて一護は続けて
「結果、おまえが持ってたアレの中身はコンだったわけだが。
 でも最初気付かなかったって事はアイツの演じてた性格、学者だかなんだかが調べた理想の性格ってのはああいうのなのか?」
「理想的ではないか! 礼儀正しく爽やか。それ以上に必要なものがあろうか?!」
 僅かに声を高くしてルキアは口答えする。
「なんて言うか…現実味ねえなぁって。コッチのこと、何にも解っちゃない」
 ボソリと言われた一言は、強大な力でルキアを打ちのめす。

 素晴らしいものだとずっと思っていたのに。
 素晴らしい科学力の賜物だと思っていたのに。

「第一、肉体に固執して抜けようとしていない魂の持ち主が、ああいう性格だとは到底思えないんだがなぁ」
 一護の呟きは、激しくショックを受けてしまったルキアの耳には届かない。

「それに、トラックが突っ込んだとかだっからまだ解らなくはないけど、横綱が来てテッポウで穴開けた、ってのは、ナイだろう。うん、ないな。
 そんな記憶作っとくなよって、おい! ルキア? 聞いてんのか?」
 よろよろと教室を出て行ってしまったルキアは、その日放課後になるまで帰ってこなかった。